会長挨拶
化学工学における産学連携が生み出し育む力:
”共創”、“協奏”、“競争”
The Power of Industry-Academia Collaboration in Chemical Engineering:
“Co‑creation”, “Co‑performance” and “Competitiveness”

会長 永松 治夫
Haruo NAGAMATSU
2025年度の化学工学会の会長という大役を担うことになり、喜びと責任を強く感じています。
私は東洋エンジニアリング株式会社の会長を務めています。プラントエンジニアリングにおいて、化学工学はその心臓部と言えます。
何故なら、化学工学はプロセス開発、設計、装置設計、シミュレーション、トラブルシューティングなど、幅広い分野で重要な役割を担うと共に、機械工学、電気工学、土木工学など様々な分野の知識が求められるプラントエンジニアリングでは、これらの分野と連携することで、プロセスの開発、プラントの設計・建設・運転支援の中心に位置しているからです。そして、これらの活動が企業ミッションである製品品質向上、コスト削減、環境負荷低減、新製品開発などの顧客の競争力向上に深く関与しています。
言わずもがななことではありますが、化学は、物質の性質や変化を研究する自然科学であり、原子や分子レベルでの物質の構造や反応を詳しく調べ、新しい物質を合成したり、物質の性質を解明したりします。
一方、化学工学は、化学の知識を応用して、工業的に有用な物質を効率的に生産するための技術を開発する学問であり、化学反応を大規模に行うための装置設計、プロセス制御、エネルギー効率化など、より実践的な側面に重きを置いています。
化学の基礎知識なしに化学工学は成り立ちませんし、化学の発見を世の中に役立てるためには化学工学が必要であり、どちらも現代社会において非常に重要な学問分野であり、共に発展していくことが必要です。
化学工学の発展のために化学工学会の意義は大きく、その存在への期待は過去、現在、未来において少しずつ変化している・いくと考えます。
高度経済成長期には、化学産業の急成長に伴い、化学工学会は産学の要として人材育成の中心的役割の一翼を担うことで、新しい化学製品のプロセス開発や改善に寄与し、産業の発展に大きく貢献しました。
現在は持続可能な社会への貢献が求められています。例えば、地球温暖化、資源枯渇などの環境問題が深刻化する中、化学工学会は環境負荷低減技術の開発や循環型社会の実現に貢献することが求められています。
未来においては、より一層、社会課題解決に寄与することが求められ、そのための人材育成がますます重要となり、化学工学会は、その中心的役割を果たすことに期待が高まっています。例えば、AI、IoTなどの技術を活用して化学プロセスを高度化することで、社会インフラの維持・発展など、より効率的で持続可能な社会の実現に貢献することが期待されるのではないでしょうか。
今年の化学工学会の取り組みの一つとして、9月にINCHEM TOKYO 2025を秋季大会と同時期・同地域で開催します。今年のINCHEMの統一テーマとして「持続可能な未来への共創イノベーション:化学技術によるサステナブルな社会の実現を目指して」を掲げ、化学工学会主催のシンポジウムをINCHEMで開催するなどにより秋季大会との連携を図ります。この機会を通じて学生や若手研究者らと企業関係者間のコミュニケーションが活性化し、産学連携による人材育成強化に繋がることを期待します。
化学工学会は2036年に創立100周年を迎えます。2024年3月に発表された”VISION2036”で掲げるミッション「人と科学技術で社会の未来を拓く」を果たすべく、化学工学会は単に化学産業の発展を支えるだけでなく、社会全体の持続可能な発展に貢献し、様々な社会課題を解決していくことが重要な役割です。そして、化学工学における産学連携を進めることが、“共創”、“協奏”、“競争”といった大切な“力”を生み出し、育むと私は信じています。
私も微力ながらも会長として化学工学会の活動がより活発なものとなることに寄与したいと考えていますので、より一層のご指導、ご支援をいただけますようにお願いいたします。
(略歴)
1981年 東洋エンジニアリング(株)入社
2000年 Toyo Engineering & Construction Sdn. Bhd. Managing Director
2013年 東洋エンジニアリング(株)執行役員、インフラ事業本部長代行 兼 インフラ事業本部インフラプロジェクト本部長
2016年 同社常務執行役員、インフラ事業本部長
2017年 同社取締役、常務執行役員、インフラ事業本部長
2018年 同社代表取締役、取締役社長
2023年 同社取締役会長