会長挨拶

化学産業と化学工学を考える

 前先生の後を受け,2016年度化学工学会会長を拝命いたしました。
一年間の短期ではありますが,企業人としての視点から発信することを心がけ学会の発展に貢献できればと考えております。会員の皆様のご協力,ご支援をお願いいたします。

「Solution Provider」としての化学と化学産業

 化学が生み出す製品や素材は,温暖化やエネルギー・資源,食糧など地球規模の問題から,高齢社会における人の健康増進策などにいたるまで,さまざまな領域における課題を解決する力,Solution Providerとして注目されています。

 どんな産業の先端的技術イノベーションも化学が生み出す製品や素材なくして完成できない。化学産業は「ものづくり立国」日本を支える産業の米,インフラストラクチャーであり,「21 世紀は化学の時代」といわれる所以であります。

 社会や技術のパラダイム転換。すなわち,化学産業では,すでに起こった未来(ドラッカー)に向かって,イノベーションの新しいドラマが始まっています。
(例えば)
・医療における未病,難病への取り組み
・Internet Of Thingsによる第4次産業革命
・AIやロボットなどの技術革新

 こうした動向のなかで,競争力ある製品や素材をどんなプロセスで工業化するか,化学工学の本当の力が今試されています。革新プロセスなくして新しいイノベーティブな素材は生まれないからです。

 多彩なプロセス技術を組み合わせ,今までにない新しい生産技術を創出する。そのための産学協同の研究を期待します。

エネルギー危機と化学工学

 世界のCO2削減は進んでいない。地球は悲鳴を上げています。

 新興国を中心とする人口の増加と産業の急速な発展は世界のエネルギー消費を飛躍的に増大させ,化石燃料に頼ったエネルギーの供給は減少していない。それに伴ってCO2発生量は増大を続けています。

 地上と海洋の生態系の変化や食糧の課題も,地球環境,エネルギー問題と深く関連します。これらの課題に答えるには,個々の革新的なインベンションに加えシステム全体の定量的な理論構築がマストであり,それはまさに物質収支・エネルギー収支に関する化学工学の基本的視点ではないでしょうか。

 例えば,化学プラントのエネルギー消費に関する課題を考えてみましょう。(一般的には)ケミカルプラントは大量の熱エネルギーを消費する装置です。したがって膜濃縮や膜分離に関する開発プロジェクトやマイクロリアクターの一般的なプロセスへの利用検討を加速するなど革新的な省エネプロセスの創出を急ぐ必要があります。

 数値目標を掲げて約束することも大切ですが,社会的なエネルギーイノベーションを誘導する工学的インベンションが待望されているように思います。

 ところで今とってもVolatile な状況にありますが,原料としての原油は,将来の化学産業の明暗を分ける重要な変節点にあると思っています。原油は短期では地政学リスクや需給バランスに左右されますが,長期的には技術革新との関連で理解する必要があります。すなわちCO2削減のため自動車はEVやHCVの普及が進み,エンジンからモーターに代わることでガソリンの需要は大きく減少すると思われるからです。石化原料の動向に大きなインパクトになる変化が想定されます。

垣根を超えた学会活動について

 近年の傾向として,化学工学会を含む多くの学会で,会員数の減少や学会誌へのアクセスの減少が問題となっています。情報検索技術が進化し,情報へのアクセス,研究者間の交流の手段が劇的に変化していることがその理由のひとつだと思われます。

 化学工学会では,他の複数の学術領域との垣根の無い融合が進んでおり,活動領域が他の学会へと広がっていると聞いています。複数の領域で生まれる多くのインベンションを複合化・システム化し新しい社会価値を創造することができないか,そのために多くの領域の研究技術者たちが集う企画が考えられないか。化学工学会が,そんな風に「一体で考える化学アカデミア」を誘引する場となることを期待したいものです。

 そして,これまでに述べた何れの課題も地球規模での取り組みが必要なことは明らかです。2015年のINCHEM TOKYOでは海外からの出展が増え,これまでの諸先輩の皆様の努力に敬意を表したいと思います。

2016 年度の重点施策について

 最後になりますが,本年度の化学工学会の重点施策は「ビジョン2023」を基本として取り組んでまいります。中でも以下の3点をフラッグとして掲げ活動してまいります。

① 産学が連携して国際交流を進める。
② 深い専門力と広い視野を持つグローバルリーダーエンジニアを産学連携して育成する。
③ 複数の学問領域・技術領域・産業領域の融合と知の連帯United)を推進する。

 当学会は産学の垣根が低く,他産業や他学術領域との融合も進んでおり,新産業・新技術の創出が期待されています。また劇的なグローバル化の進展など産業界の変化に応えられる人材育成は学会の重要な役割であり,産学が連携して取り組む必要があります。

 起業家精神に富んだグローバルエンジニアの育成は化学工学会の大きな使命だと考えています。