会長挨拶

社会のための実学化学工学とその先


会長 阿尻 雅文

 この度,2018年度,2019年度の会長職を拝命することになりました。昨年度まで,元会長の前先生,菅原様,藤原様の下,ヴィジョン2023の達成に向けた実行計画が再整理され,学会改革が強力に推進されてきました。私もその間,副会長として微力ながら支援させていただいておりましたが,会長職に就きましてからも,これまでの流れを引き継ぎ,ヴィジョン2023の計画を実行に移していくことが大切な責務だと考えております。

 化学工学の将来を考える上で,化学工学人材の育成は欠かせません。産業界からの「化学工学」人材を求める声は,現在も,旧来と変わりありません。しかし,近年,化学工学教育の場は,困難も抱えつつあります。全国的にみると,大学での化学工学の講座数は少しずつ減少しています。1,2講座しかない小規模の地方大学からは,化学工学を包括的に教育することはとてもできないといった嘆きも耳にします。一方,最近は化学工学分野に所属する研究者も,他分野や境界領域で活躍し始めていますが,それらの先端研究を通して化学工学のアプローチを学生に伝えられるのかといった不安や危惧も出てきています。このような限られた場,教育時間の制約の中で,化学工学のアプローチを伝え,化学工学人材を輩出していく新たな方法を模索していくことが求められています。化学工学の基本的なアプローチを抽出し,その「問題解決型方法論」を学べる教科書を作ることはその解決の一案かと思います。

 一方,化学工学人材が活躍する場は,石油化学プラント・プロセス設計,管理だけではなく,新製品の開発や社会システムづくりにも広がっています。上記の化学工学の発想,アプローチを活かす教科書の題材として,旧来の石油産業の場のプラント設計だけではなく,プロダクトデザイン,デバイスデザイン,あるいは技術アセスメントに基づく地球環境,地域社会システムデザインといったテーマも取り上げていくことも大切かと思います。そのような例題があれば,問題解決型方法論の使い方をより理解しやすくなると思います。

 最近の化学工学研究は,産業や社会から離れてしまっているという声もあり,「実学としての化学工学」の再興を考えていく必要があります。すでに立ち上げた社会実装学創生研究会をさらに大きく展開していくことが大切だと思っています。新プロセス技術開発とともに,経済性,社会に与える影響・効果の評価を同時並行させるアプローチ,さらには未来の社会ヴィジョンを描き,そこからバックキャストして将来必要な課題に取り組むといった活動が重要です。このような「場の提供」と上記の「教育基盤」による化学工学人材の輩出とが連動すれば,社会とともに生きる化学工学,社会に貢献する化学工学の将来像が作られていくものと期待しております。

 化学工学の将来を考えると,将来の化学工学の中心的なテーマの探索をおこないつつ,社会をリードする化学工学を築き上げていく必要があります。今,世界は混沌とし,大きく動いており,未来の姿も,解決すべき課題すら見えにくい状況です。しかし,このような時だからこそ,積極的に社会のヴィジョンづくりに参画しつつ,化学工学の将来の中心テーマを探っていくことが大切に思えます。それが未来社会をリードしつつ,社会に大きな貢献を果たしていく化学工学を作り出すことにもつながっていくのではないでしょうか。すでに始まった化学工学会のヴィジョン討論会等を通して,皆様と一緒にそれを議論していければと思っております。

 このような新たな化学工学を生み出そうとする場では,新たな風,発想の多様性が重要です。男女共同参画はもちろん,官,産,若手の参画,外からの視点を学会に積極的に取り込んでいくことが必要だと思います。化学工学会だけでは対応できないようなテーマに対しては,海外の化工学会との連携はもちろん,他学会・他分野との連携・協調が重要ですし,さらに日本学術会議(今期からは,約20名もの会員・連携会員が参画することになりました),日化協,JACI,日本化学連合,官,マスコミ等との連携を通して,より大きな活動展開と発信力を持つことにもつながると思います。

 ぜひ,会員の皆様とご一緒に,社会・産業に貢献しつつ,夢を抱ける未来の化学工学会を作り始められればと思っております。