化学工学とは

「化学工学はどのように誕生したの?」
「ケミカルエンジニアはどんな所で活躍しているの?」

化学工学に関する様々な疑問にお答えします。

化学工学って?

化学工学はどのように誕生したのですか。

化学工業では、人体の臓器のように装置の中で物質の状態や組成、性質を次々に変化させる工程(プロセス)を経て、製品が生産されています。化学反応を利用して、物質に化学変化を与えただけでは製品は得られません。化学反応の前後に混合したり、分離したりする、物理変化を主とする前処理と後処理が必要です。全工程の中では、一般的に化学変化を行う部分よりも、それまでの準備や後始末の工程の方に経費がかかる場合が多いと言われています。

しかし、物理処理を研究対象とする科学はなく、もっぱら経験や勘に基づいた技術に頼っていたのが化学工学誕生以前の化学工業でした。20世紀の石油・石油化学時代に入り、まず物理的処理を分類・整理し、プロセスを合理的に構成しようという試みが米国で始められました。「単位操作(Unit Operations )」という概念の提案です。このアプローチは、化学工業について単なる多種多様の化学工業製品の製造体系を個別に考えるというそれまでの考え方から、単位操作の体系という見方に一変させました。化学工学はこのように、20世紀前半の激動の技術革新の中から誕生しました。

化学工学はこれまでどのように展開してきたのでしょうか。

当初、単位操作の確立と応用が化学工学の中心でしたが、1940年代に入リブロセスの中枢にある反応装置の設計の合理化が課題となり、物理的な見方に基づく単位操作の概念だけでは反応装置の設計や開発に不十分なことが分かってきました。「反応工学」はそのような中から生まれてきました。

次に1960年代になつて、単位操作に共通する、より基礎的な因子や研究課題をを取り出して体系化をしようとする動きが出てきました。このような流れの中から出てきたのが、移動速度論(移動現象論)や粉体工学という化学工学の基礎に相当する分野です。1960年代後半からは、プロセス全体を扱う「プロセス工学」「プロセスシステム工学」が次々と生まれてきました。

このようにして、1970年代には化学工学は体系的で現代的な総合工学として確立したのです。

化学工学の展望は何でしょう?

化学工学は、どのような対象もーつのシステムとしてとらえ、そのシステムを幾つかの要素の結合として表現できる 手法を持っています。そのため化学工学は方法論の学問とも呼ばれています。化学工学は化学工業を対象に誕生しましたが、このような強力な手法を持つため、様々な分野に展開してきました。鉄鋼関連分野や化学的な側面を持つ火力・原子力発電の分野で化学工学は大きな威力を発揮し、1970年代には、公害対策や環境技術の分野で大きな貢献を果たしました。

1980年代に入り、化学工学の対象は化学工業の枠を大きく超えて、地球環境やエネルギー、先端材料、バイオテクノロジー、メディカルテクノロジー、廃棄物リサイクルなどの分野へと大きく広がっています。

化学工学は世界共通の学問体系として、各国に数多くの研究者・技術者・学生達が活動しています。 また、化学工学は、地球規模の物質やエネルギーのハンドリンクに関わっており、これを学ぐことにより世界規模で物事を考える視点も身に着くことになるでしよう。

これから学ぼうとする君たちへ

大学の化学工学コースは他のコースと何が違うのですか。

化学工学コースでは、ある特定分野での深い専門知識を持つ専門家(スペシャリスト)だけでなく、 対象とするシステムを世界的な視野で合理的に評価、設計できるようになるための教育を目指しています。

今や、新しい“モノ”を作る時に、どんな原料を使うかを考えたりするだけでなく、製品や産業廃棄物が地域と地球の環境にどんな影響を及ぼすのかなど、全体のことを視野に入れながら考え、設計しなければいけない時代です。化学工学を通して一部分だけでなく、それを含む全体の調和を考える能力も養えるでしょう。

化学工学コースでは具体的にどんな科目を学ぶのですか。

数学や化学、物理など自然科学の基礎を土台に

  1. 熱力学や移動速度論、反応工学、流体力学など、様々な静的、動的な現象を理解し簡略化(モデル化)して扱うための科目
  2. 応用数学、システム工学、コンピュータ科学など、定量的な答えを導くための方法を学ぷ科目
  3. 環境やエネルギー、バイオテクノロジー、先端材料など応用の対象になる科目

について広く学ぶことができます。

ケミカルエンジニアはどんな所で活躍していますか。また、どんな職業に就けるのですか。

ケミカルエンジニアが活躍している分野は非常に広範囲に及んでいます。化学プロセスを始めとして各種プロセスの開発、設計、生産、管理などは従来からの活躍の場です。現在の重要な課題になつている環境汚染防止や廃棄物リサイクル、エネルギー変換のためのプロセス・システムの開発などについては、ケミカルエンジニアが中心的な役割を演じています。

卒業生の就職先は、化学工業やプラント設計、石油精製、食品・医薬品、繊維、製紙、セラミックス、鉄鋼、金属、機械、エレクトロニクス、建設、電力・ガス、商社、研究機関と広範囲に及んでいます。皆さんが活躍できる場はいたる所にあります。

活躍するケミカルエンジニア

化学工学の体系がまだ良く分からない…。

生産プロセスの大半は、化学屋さんだけでも物理屋さんだけでも解決できないプロセスです。化学工学は、様々な化学的、物理的変化を含むプロセスの解析、設計、開発のための工学と言えます。

その特色は、方法論(物質収支、エネルギー収支、熱力学、移動速度論、反応工学、システム工学など)を横糸とし、石油化学や材料、エネルギー、環境、バイオなどの対象分野を縦糸とする多次元的体系を持っていることです。

これからの技術者に望まれるものは何でしょうか。

当初は化学工場を対象としていた化学工学は、公害・エネルギー問題、新材料ブーム、バイオテクノロジーブーム、地球環境時代の到来を経て、多くの分野に展開し、その縦糸を発展させてきました。

今日、全ての技術分野で、複雑なシステムの開発をいかに合理的に展開するかが大きな課題となり、また問題・課題の範囲についても、一つの工場のようにごく限られた範囲から、国を超えた地域、地球全体というように広がっています。化学工学が培ってきた方法論と各分野での実績は、今後ますます発展し、科学技術の発展に貢献するものと考えられます。

化学工学は化学工場の装置の設計や運転を合理的に行うための学問と思っていましたが…。

日本の化学工業は、高度経済成長時代に欧米の技術を導入し、主に大量生産を行うことによって発展し、成長してきました。今日では、身の回りに世界中のモノや情報があふれています。

しかし、長期的には、エネルギーや資源、環境が有限であると考えなければなりません。このようなグローバリゼーションの時代、マルチメディアが生活の中に入つてくる時代に必要とされる技術者は、新しい発想を持ち創造性に富んだ人材、対象をグローバルに(地球規模で)とらえる能力を備えた人材であると言われています。