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「仕事を続ける時に悩んだこと」
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東北大学 北川 尚美
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博士後期課程修了後、大学の助手として働き始めて2年目に最初の子を妊娠した。
専業主婦だった主人の母から「仕事を続けたい気持ちはわかるが、自分のしたいことをするために子供を犠牲にするのは・・・」、自分の父からは「仕事を続けなさい。でも、かわいい孫を他人に預けるのは心配だ。お母さんをずっとお前のところに行かせるから。」と言われた。仕事を続けることは母親の我が儘だろうか、子供にとって保育園に預けられることは犠牲なのか、離れて住む両親に大きな負担をかけてまで自分の仕事を続ける必要があるのか、などの考えが頭の中をぐるぐる回った。
親戚や知人からは「3才までは母親と一緒に過ごさないと子供に良くないらしい」とか、「母親が働いている子供は愛情に飢えて非行に走りやすい」などとも言われた。仕事を持つ先輩は数少なく、私が聞いた言葉は「お母さんだって好き勝手していたのだから、私も好きなことをするわとよく言われた」(子供が既に自立している研究者の方)、「寂しい想いをするかもしれないけど、いつか分かってくれると思っている」(子供が就学前の公務員の方)というものだった。主人は理想主義で「せっかく高度な教育を受けたのだから社会に貢献するように」だし、自分では「子供の人生最初の笑顔や一歩を他人に見られるなんて」という感情的な想いと、「親と子の関わりは時間ではなくて深さだと思うけど、本当にそうだろうか?」という不安で一杯だった。
結局、切迫早産となり1900g弱の未熟児で生まれたため、医師から子供が1才になるまで保育園に預けることは難しいと言われた。それにも関わらず、私が数ヶ月で仕事に復帰するのが当然だという方向で物事が進んだ。出産のための入院中に私が精神的に弱っていたので、主人が周囲に何か言ったのかもしれない。父の言葉通り、母が半年間月から金まで泊まりで子供の面倒を見に来てくれた。自宅から大学に通っていた妹が、父の面倒をはじめとして実家のことを全てしてくれた。それまで何もしなかった父が、「孫のため」といって家のことを手伝うようになったとも聞いた。感謝する反面、自分の仕事は周囲の人にそんなに迷惑をかけてまで続けるべきものだろうかと、思い悩んだこともある。子供が保育園に通い始めても、5日通って入院、10日通って入院、それでも周囲は何も言わずに協力してくれた。小児科医からも「保育園をやめる必要はない。調子が悪ければ休んで、良くなったら通って、騙し騙し続けなさい。子供は少しずつ強くなるから。」と励まされた。仕事を辞めることはいつでもできる、だから打つ手がなくなるまで続けよう、そんな気持ちで何とか過ごした。苦しい時期はそう長く続かず、ある時期を過ぎるとそれまでが嘘のように楽になった。そして、もう一人子供がいてもいいかな、と思えるようになった。二人目の子供は幸い健康に恵まれ、数ヶ月から保育園に預けることができた。私が早くから子供を預けるのは、保育園の先生との結びつきが強くなり、泣かないで通うことができるためだ。その時だけだと知ってはいても、私は泣いている子供を残して職場に通うのが大の苦手だった。
子供が11才と5才になった今、多くの人にサポートされながらも仕事を続けて来て本当に良かったと、自信を持って言える。勝手な思い込みかもしれないが、保育園に預けていても子供の人生最初の笑顔など何でも自分達が一番に気付いたし、短い時間のコミュニケーションでもちゃんと愛情は伝わるし信頼関係も築ける。今や主人の母が一番のワーキングマザー推進派だ。私と一緒に周囲の人に「保育園はいいわよ、安心して預けなさい。」などとアドバイスしている。実際、保育園の先生方について、さすが専門家だと感心することも多い。子供の能力を良く知っていて、ハイハイもしないうちから歌やお遊戯を教えてくれて、まだ小さいから出来ないと思い込んでいる私達はいつも驚かされた。
昨年、上の子の担任の先生(子供が就学前の方)から、「北川さんを見て、子供との絆は時間じゃなくて深さなのだとしみじみ思いました。参考にして自分もがんばりたいと思います。」と言われた。とても嬉しく、これまで不安や疑問を抱きながらも頑張って来て良かったと心から思った。子育てと仕事との共存のさせ方はいろいろあると思う。私は、せめて心の中だけでも、仕事よりも子供を大事に優先させるように心がけている。
1)子供との会話の時間を作る
2)家族みんなで過ごす時間を作る
3)「大好きだよ」とか「大事に想っているよ」と言葉で伝える
などが秘訣かもしれない。「家事をきちんとするよりも、子供との時間を大事にするように」が私の母からの助言である。それをいいことに、ファミリーサポートを利用して家事をさぼっている。ワーキングマザーにとって完璧主義は大敵だ、柔軟性が一番大事。これか
ら先、子供達がどうなるかは分からない。やっぱり、「お母さんだって好き勝手している・・・」と言われるかもしれない。でも、きっと仕事を続けてきたことは後悔しない、いつかきっと分かってくれると思うから。
余談であるが、昨年8月から今年の3月までアメリカの大学に研究員として行かせてもらった。いろいろ悩んだが、仕事を持つ主人を日本に残し、子供2人を連れて行った。上
の子がアメリカの学校に通いたいと強く希望したため、下の子だけを実家に預けて上の子一人を同行させようとも考えたが、最終的には子供達を別々にしない方がいいと決断した
。渡米中は、日本人だけではなく、いろいろな国の人に助けてもらった。それでも、一人で行くよりもずっと有意義な時間を過ごすことができたと思う。「案ずるより生むがやすし」やってみれば何とかなるものだ。こんな行き当たりばったり気味の私の経験であるが、同じように悩んでいる後輩達の何かの役に立てばと思う。
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北川 尚美(きたかわ なおみ)氏
東北大学 大学院工学研究科化学工学専攻 准教授
(最終学歴:東北大学大学院 博士後期課程 化学工学専攻)
E-mail:naomi@rpel.che.tohoku.ac.jp |
| (2007.6 掲載)
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