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少し異色の視点から化学工学
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(株)ファンクショナル・フルイッド 藤岡 恵子
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プラスチック射出成形の冷却水に関連する機器や薬品を製造する会社を創業してから約20年になります。大学以来のテーマであるケミカルヒートポンプの研究も続けているので、創業以来3/4の期間にわたって会社経営と研究を並行してきました。射出成形では加熱・溶融した樹脂を金型に圧入後、冷却・固化して製品を作りますが、金型内での冷却速度によって樹脂の物性、結晶化率、配向、収縮率が変化するので、射出成形の冷却工程は生産性やコストだけでなく製品の精度や強度、不良品率に影響を与えます。この射出成形の冷却水の重要性に着目して、冷却水孔に堆積した錆やスケール(水中の炭酸カルシウムなどが析出したもの)を洗浄する薬品やこれらの障害を防止する薬品から事業を始めました。腐食の発生機構やデポジットの伝熱抵抗などを本やメーカーの技術資料から勉強しましたが、高校卒業後に進学したのは法学部で薬品にも機械に全くの素人だったので、例えば酸化還元電位や微分方程式が出てくると全く分かりませんでした。会社を始めてから数年経って事業がある程度安定してくると、仕事に関連する現象をきちんと理解したいと思うようになり、入試を受けてもう一度大学に入りました。学部生になって、入学前の色々な謎が解け、配管の圧力損失や熱交換器の伝熱量を計算できるようになったのがとても嬉しかったのを覚えています。朝早く会社に行って仕事をしてから大学に行く生活は忙しかったけれども、大学での研究が面白くて結局後期課程まで修了しました。
こうして学生をしている間に、射出成形の世界ではエンジニアリング・プラスチックスと呼ばれる高機能樹脂材料が次々に開発され、精密部品や光学機器への応用が急速に進展しました。私の会社は薬品からスタートしましたが、冷却水系を二次冷却化する装置、脱酸素防錆装置などを加えて成形の精密化に対応したより効果的な冷却水管理のための機器を開発してきました。ここ数年は、樹脂の滞留・炭化を防ぐ原料樹脂供給量の制御装置、製品樹脂の帯電による塵芥の付着や離型不良を緩和するための加湿装置、銅、アルミニウムなどの研削を容易にする難削材研磨補助装置など、冷却水以外の成形技術にも対象領域を広げています。私の場合、多くの技術系ベンチャービジネスの創業者がエンジニアや研究者出身であるのとは逆の順序になりましたが、大学で学んだことや学会で得た知識は製品の開発に大きく寄与しています。対象領域の幅広い化学工学を選んだのも幸運でした。
射出成形にとって、この十数年はエンプラ化、精密化の時代だったと同時に、東南アジア・中国を中心とした海外への工場進出が相次いだ時期でもありました。その初期からこの地域の日系企業に当社製品を納入してきましたが、一昨年7年ぶりにシンガポールへ行った際に訪れた現地企業がレベルアップしているのに驚きました。機械装置、製造技術が以前と比べて格段に優れたものになり、工場の清潔さは日本企業を上回ります。中国でも優秀な現地企業が多数出てきました。彼らは日系企業から多くを学んでここまできました。もっと日本の技術に追いつきたいという意欲があり、日本企業が使っているなら同じ設備にしたいと中国企業から引き合いが来ることも多くなりました。製造業の空洞化が言われて久しくなりますが、ますます厳しい時代になるのを実感します。
女性の創業者社長は珍しいので、会社を作ったきっかけをよく問われます。実際にははっきり意識していたわけではないのですが、面白い仕事をしたかったというのが最大の理由でしょう。私の時代には4年生大学女子、とくに法学部のように男子主体の学部出身者の就職はとても難しく、やりがいのある仕事につくことは一層困難でした。私も何とか職を得たのですが続ける気になれず、プラスチック加工の会社に移りました。ここで、形あるものを作る面白さを知りました。小さな会社だったので、希望すれば何でもやらせてもらえました。グラビア印刷機や樹脂フィルムの加工機を操作しての生産や、営業もやりました。営業に向いているとは思いませんでしたが、成果が数字で出るので性別や経験に関係なく実力を評価されるのが嬉しくて頑張りました。短い間でしたが、やってみればいろんなことができる楽しさとプラスチックの世界を知ったことが転機になりました。
実社会では男女間の不平等はかなり厳然と存在します。その中では、エンジニアや研究者は能力や業績がまず評価される公平な社会だと思います。もちろん、不利な点は多々あるでしょうが、他の業種と比べるとはるかに客観的に評価されるし、高い能力を期待されていること自体が素晴らしいことに思えます。職場での処遇以外に、私にとって問題だったのは男性のネットワークとでもいうべきものです。男性がほとんどを占める職域に出て行くと、親切にしてくれますが本当の仲間にはなかなかなれません。これは、男女では幼いときからの遊びや友人関係のあり方など、多くの点で集団のルールのようなものが違うことが原因の一つではないかと思っています。男性が大学以来の知人を通して持つ広い分野の人脈を、多くの女性は持たないことも不利な条件です。しかし今の学生を見ていると、こういった男女間の違いや隔たりは少なくなってきているようで今後が楽しみです。
私の経歴は少し異色ですが、仕事のキャリアには様々な可能性があるなと思っていただけたら幸いです。リスクの伴うことなのでむやみにお勧めはしませんが、家族に対する経済的な責任が少ない女性の方が、思い切ってベンチャーに飛び込めるかもしれません。この仕事をしなければ化工の世界に来ることもなかったと思えば不思議な縁です。どちらも楽しいので、この縁に感謝。
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藤岡 恵子(ふじおか けいこ)氏
(株)ファンクショナル・フルイッド 代表取締役
博士(工学)
(最終学歴:大阪大学大学院基礎工学研究科 博士課程修了)
E-mail address: kfujioka@functional-fluids.co.jp
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| (2005.9.22 掲載)
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