|
印刷用(PDF):プリントしてお読みになれます。
|
|
昔・・・昔・・・昔 そして現在
|
(株)日本科学技術研修所 宮下 礼子
|
私が化学工学という分野に関係するようになった分岐点は2回あったと思います。
最初は大学進学です。それも工学部へ。今から何十年も前に、中学、高校と女子校で学んだ私が大学の工学部へ進もうと決意したのにはそれなりの理由がありました。
ひとつは当時高分子や化学繊維の合成化学が発展途上にあり、それに大いに刺激され、自分もそういう分野で研究し、少しでも社会に貢献したいと思ったこと、それと女性だけという偏った社会に私はあまり馴染めなくてそこから飛び出したかったこと、更に当時、まだ女性の大学進学率がそれ程高くない時代に、教育は大事だからと大学進学を勧めてくれた両親に対して経済的に自立できる知識・技術を身につけたかったことなどです。なんとか第一志望の大学の工学部に合格しましたが、そもそも入学試験の時から前途多難を思わせる出来事にぶつかりました。一次試験は都内のある理工系私立大学で行われましたが、なんと受験した校舎では女子トイレがなくて、3月のひどく寒いどんよりした日に、大学正門近くの大学事務棟まで行ってトイレを借りました。トイレに関しては大学に入っても大変でした。1年次から専門の基礎教育があり、工学部校舎で講義・実験があったのですが、その時も女性トイレは6階建ての校舎の1階と3階に1室ずつしかなく、いつも6階で講義を受けるあいまに1階まで階段、あるいはエレベータで移動するという毎日でした。トイレの問題は非常に切実ですが、ありがたいことに現在は年会や秋季大会で大学の工学部等に伺うと必ず男子トイレと同じ位置にあり、大きな時代の変化を感じています。
2回目の分岐点は4年次の研究室選択の時だったと思います。高分子等に興味をもって大学に進学したものの、次第に公害問題があからさまになり、化学が万能ではないことを感じました。それで4年次の研究室選択も何処にしようかと態度を決めかねていた時に、化学工学専攻の平田光穂先生にお声をかけていただきました。そもそも化学工学とは何かも知りませんでしたが、同期生の「誘っていただいたところへ入った方が良いのでは」という声で専攻を決めました。当時平田研に入る条件としては、
(1)お酒が飲めること、(2)マージャンができること、(3)野球ができることの三つがあったのですが、私は全然それに合致していませんでしたが、特別に許可していただいて、その時女性は有利だなと思いました。研究室では高圧気液平衡の測定とシミュレーションということで、当時はまだまだ珍しかったコンピュータを学生の身分で使わせていただき、結局これがその後の仕事につながりました。研究室での実験はほんのお手伝い程度でしたが、薬品まみれ、汗まみれで実験している先輩、同期生の姿は結構カッコよく、自分もできればこういう機器に関係する肉体的な仕事に就きたいと思いました。しかし当時は工学部の工業化学科に女性がいるということ自体が稀な信じられない状態でしたので、希望するような肉体派の仕事は全然といっていいほどありませんでした。そこでまた平田先生が当時関係されていた現在の会社を紹介して下さり、10代では全く想像していなかったコンピュータの世界で仕事をすることになりました。
私が勤めている会社は広い分野を対象としたメーカとは関係ない独立系のソフトウェアハウスです。大学で化学工学を学んだということでずっと化学工学関連の仕事を担当してきました。私が入社した最初の十数年は景気もよく、日本の化学工業も多いに盛んで、化学工学に関係する仕事を多くこなしてきましたが、その後不況と海外ソフトウェアの普及で急激に仕事が減ってしまいました。そのため最近ではどちらかというとエネルギー関連の仕事をしています。しかし化学工学の基礎として学んだ単位変換、物質収支(熱収支)の考え方は非常に有効で、多少異なる分野の仕事をする時もこの観点から解析方法を考えています。分野・分野で特徴的な解析方法があるようですが、その中でトラブルがあってうまく進まないといわれる仕事に対して、化学工学的なアプローチで無事に問題解決できることがあり、その時の達成感はすばらしく、化学工学の基礎は全てに通じると感じる瞬間です。
大学では最後の1年間だけ化学工学のほんの一部を学んだのみで、実際には仕事をしながら化学工学に関する知識を吸収しました。その時も情報収集などで先生、先輩等のお力をお借りしました。大学4年間での研究室生活はたった1年でしたが、その時の先生、先輩、同期生がその後もいろいろ励まし、応援してくださったおかげで現在の自分があると思います。
会社員を30年近くなんとか勤めてきた時に、これまた大学の同期生からいろいろな分野のネットワークが大事といわれ、化学工学会のある委員会に参加させていただきました。そして平成15年春に男女共同参画委員会が理事会のもとに発足し、思いもかけず委員長職を受けることになりました。実は私はこの委員会のお話をいただく前には『男女共同参画』という言葉を知りませんでした。私の年代ではまず『男女平等』が目標として掲げられた時代が長くあり、『男女雇用機会均等法』でようやく女性も公式に男性と同じように働け、力を発揮できるような仕組みができてきたのです。私の勤務する会社はそういう意味ではさきがけではないでしょうか。なにしろ私が入社した昭和40年代ですでに男女の初任給に差がなく、もちろん仕事の内容や勤務体制にもほとんど男女差はありませんでした。能力次第で昇格もする仕組みでしたので、本当のところは仕事をしていて社内で男女差を感じたことはほとんどありませんでした。今回男女共同参画委員会の委員長を務めさせていただいて、他の学協会の同様の委員会からは男女差が激しいという意見を聞きました。分野によってそういうことがあるのか、あるいは大学・研究機関と企業との相違が大きいのか、今のところ分かりません。まだ少ない委員会活動ですが、これをとおして、化学工学分野で活躍されている多くの女性たちを知り、大変感激しています。私があきらめた工場の設計・管理等に携わっている若い方々もいらっしゃり時代は大きく変わってきていると感じます。化学工学会の中で男女共同参画の活動が若く溌剌とした男女の委員を中心に始まってきていますが、まず会員の皆様からいろいろ意見を伺い、現在活躍されている方々が更に活躍できるように、また多くの女性がこの分野に希望をもって挑めるようになるように、今後の活動の方向を決めていきたいと思っています。そして意欲・能力ある男女が共に力を発揮できる化学工学の世界を目指したいと思います。男女共同参画委員会は型にはまった委員会ではありません。皆様方のご意見・ご支援で成立する委員会ですので、是非関心をもっていただきたいと思います。
|
|
宮下 礼子(みやした れいこ)氏
(株)日本科学技術研修所
エンジニアリングアプリケーション部主管
(最終学歴:東京都立大学工学部工業化学科卒業)
E-mail address: miyasita@i-juse.co.jp
←“女子学生のためのイブニングセミナー”にて
|
| (2005.9.13 掲載)
|
「女性会員からのメッセージ」の今後の執筆者の自薦・他薦もお待ちしています。
男女共同参画委員会future@scej.orgまでご連絡ください。
なお、メールアドレスの@を全て全角に変えておりますので、送信の際は半角の@に直してお送りください。
|