|
印刷用(PDF):プリントしてお読みになれます。
|
|
続けるということ
|
東京工業大学 宮崎あかね
|
博士課程を修了し、ほっとしたのも束の間。何とか手にしたポスドクの職も瞬く間に期限が近づき、私は文字通り途方に暮れていた。そんな時、「助手として来ないか?」というお話が、突然舞い降りてきた。「私に勤まるだろうか」という不安はあったが、背に腹は替えられない。よく考えもせずに飛びついた。周りの方々は私以上に心配してくれて、「大変な仕事だよ。お嫁に行ったほうが良かったんじゃないの?」と何度か言われた。とは言うものの、修士課程の頃、「お前、ドクターなんか行ったら、嫁にいけなくなるぞ」と言われていた通り、お嫁の口もそう簡単には見つかりそうもなかった。だから、辞令をいただく頃にはすっかり悲観的になり、「私は二週間でクビになるかもしれない」と思いつめていた。
案ずるより産むが易し、で、夢中で毎日を過ごすうちに、二週間が経ち、一年が過ぎていった。いろいろな方に助けていただき、励まされ、教えられて、今年で8年目になる。その間、多くの女子学生とも関わった。化学工学でも女子学生の数は徐々に増えているような気がするが、
私の所属する研究室には毎年、数人の女子学生がいる。先日、ある女子学生から「女性の助手がいるので、少なくとも女性に差別的な研究室ではないと思い、来やすかった」と言われた時には、
私でも役に立っているのかなあと思い、大変うれしかった。と同時に、女子学生が研究室を選ぶ段階で、こんなことを考えているのか、と多少驚きもした。
男女共同参画社会と一言で言っても、実のところ、その捉え方はいろいろだと思う。「男と女が共同で参画すべき社会」もあれば、「女が男と共同で参画しても良い社会」もあるだろう。仕事をしていて聞こえてくる女性評も様々である。耳が痛いが
、「女性はねえ・・・」という意見が多いのも事実である。ただ、よくお話を聞いてみると、その人が女性だからというよりも、その人の仕事の仕方や性格等が問題になっていることがほとんどで、ジェンダーそのものが理由になっていることはほとんどないように思う。
大学入試や資格試験など、合格・不合格が点数で決まるものは特化した能力を数値化して判定するものであり、対象とする能力以外に関しては問われることはほとんどない。しかし、採用・登用は「人」を選ぶことであり、様々な個性が判定の対象となる。したがって、ジェンダーはもちろん、年齢、性格、意見の違いといったさまざまな要素が複雑に混ざり合っている。
では、なぜ、その中でも特に「女性はねえ・・・」と括られてしまうのだろうか。その理由は、珍しさ、つまり女性がまだまだ少ないことにつきる。その人の数ある個性の中で、珍しさゆえにジェンダーが強調され、問題の本質がジェンダーにすりかえられているだけなのだと思う。
工学を学ぶ女子学生の誰もが少しずつ感じ、たぶん仕事を続けていく上で感じるであろうかすかな重苦しさ、それは自分達が未だに珍しい存在だという事実に起因している。男性と同じように仕事をしても、この珍しさからは逃れられない。とにかく、全体的に数が増えていかなければならないのである。
私が身近な女子学生に言い続け、自分にも言い続けていることは、どんな形であれ、大学で学んだことをなるべく生かせるような仕事を続けていこうということである。もちろん、20代後半からの人生は大きく変化する可能性が高い。同じ仕事をずっと続けていくことの困難を、誰でも一度は感じることだろう。だからこそ、女性が仕事を続けているということは、それだけで非常に意味のあることだと信じている。
これまで、研究室を巣立っていった女子学生はほぼ全員が、ずっと仕事を続けることを希望していた。時に悩み、時に楽しんでそれぞれの仕事に励んでいる彼女達に、私も大変励まされている。細く、でこぼこした道も、歩く人が増えれば広く、滑らかになる。そして、見通しが良くなり、さらに多くの人が歩いてみようという気になるだろう。「続ける」ということの持つ意義を大切にしたい。
|
|
宮崎あかね(みやざき あかね)氏
東京工業大学大学院
総合理工学研究科・化学環境学専攻
助手
(最終学歴:東京大学・大学院
総合文化研究科・広域科学専攻)
akanem@chemenv.titech.ac.jp
|
| (2004.11.24 掲載)
|
「女性会員からのメッセージ」の今後の執筆者の自薦・他薦もお待ちしています。
男女共同参画委員会future@scej.orgまでご連絡ください。
なお、メールアドレスの@を全て全角に変えておりますので、送信の際は半角の@に直してお送りください。
|